トヨクモが主催する「トヨクモ kintone フェス 2024」は、25以上のkintone+トヨクモ製品の活用例を大公開する年に一度のオンライン+リアルイベントです。
2024年のテーマは「きっと、もっと好きになる、kintone」で、さまざまな業界で活躍中のユーザーからkintone+トヨクモ製品の便利な使い方をご紹介いただきました。
今回は、神奈川県 健康医療局 医療企画課 健康医療DXグループ 上村大地氏に語っていただきました。
自己紹介/kintone・トヨクモ製品との関わり
皆さん、こんにちは。神奈川県庁の上村と申します。本日は「トヨクモ製品だからできた!検討しながらのシステム開発」というタイトルで事例発表をさせていただきます。
まずは、kintone・トヨクモ製品と私の関わりについてです。私は2009年に神奈川県に入庁し、その後、さまざまな部署に配属されました。
2021年4月、コロナ対策を行う医療危機対策本部室に配属され、kintoneとトヨクモ製品に出会い、コロナ対策ではフル活用して対策を進めていきました。
現在はコロナが5類感染症となり、平時に戻りました。ただ、「平時に利用していないものは有事の際に素早く立ち上がらない」「kintoneとトヨクモ製品は業務改善に有効」ということから健康医療局全体へ取り組みを広げることになりました。
そして、2024年4月から医療企画課 健康医療DXグループに配属となり、健康医療局全体の業務改善にkintoneとトヨクモ製品を活用しているのが、現在の状況になります。
事例1.29,000時間削減していた事例
それでは、29,000時間削減していた事例ということでFormBridgeの活用事例をご紹介いたします。
FormBridgeを使って101件開発
医療危機対策本部室では、令和4年度中のみでアンケート・調査・照会の入力フォームを101件開発しておりました。
内容は、恒常的に設置して何かのタイミングで入力してもらうもの、単発的に何かを調査もしくは意見照会するためのもので、数多くの開発になりました。
アンケートの対象は幅広く、病院や診療所、薬局や高齢者施設、さらには神奈川県民などさまざまでした。母数についても、病院では300機関以上、神奈川県民で言えば人口900万以上とかなり多くなっています。
参考までに、以下は令和5年5月8日、コロナが5類感染症になったときまでに、県民にアンケートを行って回答が多かったものになります。
フォーム名 | 回答数 |
陽性確認後の必要書類に関する体験についてのアンケート | 97,498件 |
【抗原検査】県民向けアンケート第2弾 | 43,295件 |
抗原検査キット 県民への調査 | 34,560件 |
「コロナ陽性になったときに、どんな書類を学校や職場に求められましたか」という体験についてのアンケートを県民に対して行いました。
LINEの公式アカウントで100万人以上お友達がいるアカウントがありまして、そちらで聞いてみた結果、97,000件以上の回答がありました。
FormBridge導入前と後の比較
調査・照会・アンケートの実施について、kintoneとFormBridgeの導入前と後のフローの違いをお話しいたします。
これまでであれば、対象機関にメールで様式を送付し、様式に記入してメールで返信してもらい、回収した様式を1件ずつ転記・集計をするという作業をしておりました。
それが、FormBridgeとkintoneを組み合わせることで以下のように変わりました。
- FormBridgeで作成した回答フォームのURLをメールで送付する
- 対象機関にフォームから回答してもらう
- 回答データがそのままkintoneに自動保存される
あとは、回答データが集計されたkintoneからCSV出力して分析したり、内容を確認したりといったことを行っています。
画期的だった点
画期的だった点のうち、これまでと現在で大きく変わった点をお話しいたします。
これまでも、法定の調査や国からの依頼に基づく調査は、苦しくても必ず実施していました。ただし、任意でやりたいと思ったものは、その対象の多さゆえに気軽にアンケートが取れませんでした。
そのため、病院300機関を対象にアンケートを取るのではなく、懇意にしている病院や答えてくれそうな病院に電話で10件程度ヒアリングをして状況を推測するといったことをしていました。
また、アンケートを取っても集計できないから実施しないという判断もあったと思います。
現在は、転記・集計が自動でできるため、現状を把握したい場合は母数の多さは気にせずにアンケートを実施することができています。
最初に29,000時間削減したと言いましたが、そもそもやっていなかった業務を現在実施するようになっているので、本当に29,000時間圧縮したわけではありません。ただ、29,000時間分の濃度のある仕事をしたのではないかと思っています。
変化した点
これまでと変化した点として、主に以下の3つが挙げられます。
- 対象機関の現場の状況、県民の感覚をより具体的に把握できるようになった
- 密なコミュニケーションを取りやすくなった
- EBPM(証拠に基づく政策立案)へ近づいた
これまでは現場を想像するしかなかったり、母数が少なく推測に頼っていた部分がありましたが、より具体的に数字として把握できるようになりました。
特に、病院やクリニックとの密なコミュニケーションを取りやすくなったと思っています。
また、最近よく言われるEBPM(証拠に基づく政策立案)に近づけたと考えています。少なくとも数字で把握できる母数が多いことは、統計学上は非常にいいはずなので、EBPMには近づいたのではないでしょうか。
ただし、注意点として、調査・照会・アンケートができるといって頻発すると、病院やクリニックなど、回答する側の負担が増えてしまうことはあると思います。
事例2.検討しながらのシステム開発
次に、検討しながらのシステム開発というお話しをさせていただきます。
2024年4月に感染症法が改正され、神奈川県と病院・診療所・薬局・訪問看護ステーションが協定を結ぶことになりました。
この法改正は、新興感染症が起きたときに、迅速かつ円滑に医療を提供できるようにすることを目的にしています。
事業担当からの相談時に考えたこと
2023年8月、事業担当から相談を受けたときの状況をお話しいたします。
下記の左側が事業担当がやりたかったこと・やって欲しいと思っていたこと、右側が私たち開発担当が考えたことの一覧になります。
事業担当から相談されたことの1つ目は、病院・診療所・薬局・訪問看護ステーションなど計1万弱の対象に協定を結ぶ意向があるか調査を行いたいということでした。
開発側としては、その母数であればFormBridgeで意向調査をするしかないと考えました。
2つ目、こちらは対象機関にやって欲しいことになりますが、意向調査の結果・内容の修正や確認を行ってもらいたいということでした。
これについては、回答内容などを相手に共有しながら進める必要があるため、kViewerでMyページを作成した方がいいのではないかと思いました。
3つ目のやりたいことは、協定を締結して協定書を各機関に渡すことです。
ここでは公印が必要ないということだったので、「印影刷り込みが必要ないからPrintCreatorでいけそうだ」と考えました。そして、kMailerで協定書を送付する、もしくはMyページ上でダウンロードできるようにすれば良さそうだと構想を練りました。
最後に4つ目、ある自治体はシステム化予定で仕様ができていましたが、神奈川県にはそのようなシステムを委託する予算はありませんという話をされました。
これを聞いて、kintoneとトヨクモ製品を活用して追加予算なしで実現しないと、現場および我々が回らなくなると思いました。
以上をまとめると、最初の相談時点では質問項目や協定書の内容は未確定だったものの、システム開発をしないと業務が回らないことも明らかな状況だったということになります。
協定締結システム全体の構成
こちらが2024年6月時点の協定締結システム全体の構成です。
協定締結システムでは、以下のポイントでkintoneおよびトヨクモ製品を活用しています。
- kintone:協議データ管理アプリ/協定書・通知送付用アプリ
- FormBridge:協議申込フォーム/最終確認フォーム
- kViewer:Myページ
- PrintCreator:協定書案/協定書・指定通知書の出力
- kMailer:MyページURLの案内/協定書・指定通知書の送付
- kBackup:データバックアップ
最終確認が終わったデータは送付用アプリにCSVで流し込むか、アクションボタンで登録します。協議データ管理アプリと協定書・通知送付用アプリは両方大事なデータなので、トヨクモのkBackupでバックアップを取っています。
実は、このシステム上には2023年8月の事業担当の相談時にはなかったものがあります。
そもそも、対象機関は管理者と開設者に分かれていなかったですし、最終確認フォームもありませんでした。さらに通知書という概念も存在しなかったので、少なくともこの3つはあとから要件が来て開発をした流れになります。
要件の確定と追加開発の流れ
こちらが先ほどお話しした追加開発の流れになります。
スタート時は「新規開発」ということで、協議データ管理アプリ、協議申込フォーム、Myページの3つでスモールスタートしました。
次のフェーズで、マスクやガウンなどの防護具の保管個数を聞くという話が出てきてフォームを追加開発しましたし、そもそもこれらは協議申込時に聞くということで協議申込フォームの改修もしました。
そのあと、開設者に指定通知書を送付する必要があるということになったため、最終確認フォームで開設者の情報を聞き取り、開設者に同意をしてもらい、最終回答してもらうようにしました。
また、協定書と通知書を送付するために別途アプリが必要になり、協定書・通知書送付用アプリも開発しました。
この段階では、まだ協定書・通知書の形が決まっておらず、最後に協定書・通知書の形が確定して、その設定をやろうということで開発が流れていきました。
事例の振り返りと良かった点
今回の事例を振り返った際に、良かった点として以下の3つが挙げられると考えています。
- 期間の短縮
- 費用の削減
- 変化への対応
まず、開発に限らず、すべての期間を短縮できたと思っています。
予算の確保の調整もなければ、業務委託の仕様書も作らず、開発の受け入れテストも内部で済みました。しかも、職員同士での開発だったため、コミュニケーションのロスも低減したと思います。
次に、費用も削減できたと考えています。委託費も開発費用もいらず、職員の人員を増やさずに現状の職員で対応できました。
そして、変化にも強かったと思います。もしすべてを委託業者にお願いしていたら、すべての開発要件の洗い出しをして、要件定義をして…といった作業があったと思います。
ただ、我々は内部でやったためそのような作業は不要でしたし、状況が変化するたびに外部の業者と調整したり、追加開発のたびに契約を結んだりする必要もありませんでした。
その結果として、変化に柔軟に対応していくことができました。
今後の展望
最後に、今後の展望についてです。
まずは、健康医療局という大きな組織の業務をどんどん効率化していきたいと考えています。
そうすることで、職員に時間的・精神的な余裕が生まれ、新たな政策・施策・効率化のアイデアが生まれ、またさらに効率化の開発の相談が来ることを期待しています。
そのように上手く三角形の循環がぐるぐる回っていくと、より良い神奈川県の政策が生まれてくるのではないかと展望している次第でございます。
以上、「トヨクモ製品だからできた!検討しながらのシステム開発」のタイトルで発表させていただきました。本日はありがとうございました。