契約書のデジタル化は、業務効率化や管理コストの削減、ガバナンス強化などの効果が見込まれるため、多くの企業が積極的に導入を進めています。
導入を検討している方の中には、「契約書の原本はスキャナ保存できる?」「契約書をスキャナ保存する方法とは?」といった疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
本記事では、契約書原本のスキャナ保存の可否や要件、メリット、注意点などを解説するので、ぜひ参考にしてください。
契約書はスキャンして電子保存できる?
契約書のスキャンとは、紙の契約書をスキャナで読み取り、PDFなどの電子データで保存することを指します。
契約書の電子保存は法律で認められており、一定の条件を満たすことで、スキャンして電子保存した契約書でも法的な効力が認められます。
根拠となる法律は、税務上の文書としての効力を定める「電子帳簿保存法」と、民事訴訟における証書の効力を定める「民事訴訟法」の2つです。
電子帳簿保存法では、スキャンして電子保存した契約書が国税関係書類の原本として認められますが、民事訴訟法では原本として取り扱われない点に注意しましょう。
参照:電子帳簿保存法第2条第2号、第4条第3号
参照:民事訴訟法231条
契約書をスキャナ保存する要件
契約書をスキャナ保存する際は、正確に国税関係書類としてデータ化されていることを担保しなければなりません。
電子帳簿保存法および同施行規則によって、法律上有効とされる保存方法が定められているので、スキャナ保存の要件について把握しておきましょう。
要件 | 重要書類 | 一般書類 |
一定水準以上の解像度による読み取り | 200dpi以上 | |
カラー画像による読み取り | 赤・青・緑それぞれ256段調(約1677万色)以上 | 白黒階調 |
入力期間の制限 | 【早期入力方式】 書類の受領後、おおむね7営業日以内【業務サイクル方式】 業務の処理にかかる通常の期間(最長2カ月以内)経過後、おおむね7営業日以内 |
|
タイムスタンプの付与 | 「一般財団法人日本データ通信協会」が認定するタイムスタンプを付与する | |
解像度および階調情報の保存 | ○ | ○ |
大きさ情報の保存 |
○ ※受領者等が読み取る場合、A4以下の書類の大きさに関する情報は保存不要 |
|
スキャン文書と帳簿との相互関連性の保持 | ○ | ○ |
電子計算機処理システムの開発関係書類などの備付け | ○ | ○ |
整然・明瞭出力 | ○ | ○ |
ヴァージョン管理 |
次のいずれかを満たすシステムを使用する ・訂正または削除の記録が確認できるシステム ・ 訂正または削除を行うことができないシステム |
|
見読可能装置の備付け | 14インチ以上のカラーディスプレイ、4ポイント文字の認識など 白黒対応 |
白黒対応 |
検索機能の確保 | ○ | ○ |
参考:電子帳簿保存法|国税庁
契約書をスキャナ保存するメリット
契約書をスキャナ保存するメリットとしては、以下が挙げられます。
- 書類を管理・閲覧・共有しやすくなる
- 場所や時間を選ばずに管理できる
- ガバナンス強化を実現できる
それぞれのメリットについて、順に見ていきましょう。
書類を管理・閲覧・共有しやすくなる
スキャナ保存された契約書は、デジタルデータとして保存されるため、書類を管理・閲覧・共有しやすくなるというメリットがあります。
検索機能を利用して迅速に特定の契約書を見つけることができます。紙などのアナログ媒体で保存する場合と比較して、書類を探す手間や時間を省けるでしょう。
クラウド型サービスを利用すれば、必要な契約書を簡単に共有することができ、複数名で同時に閲覧や編集を行うことも可能です。
場所や時間を選ばずに管理できる
電子保存された契約書は、インターネット環境さえあれば場所や時間を選ばずアクセス可能です。出張先やリモートワーク中でも必要な契約書を確認できるので、業務の効率化が図れます。
また、電子データはバックアップが取れるので、災害時や緊急時にもデータを失うリスクを最小限に抑えることができます。
ガバナンス強化を実現できる
ガバナンス強化にもつながる点も、契約書をスキャナ保存するメリットのひとつです。
契約書には個人情報や機密情報が含まれるケースもあるので、不正アクセスや紛失・破損、データ改ざんなどを防止する必要があります。
電子データであれば、各ファイルのアクセス権限を設定したり、変更履歴の管理を気軽に行えるので、不正なアクセスやデータ改ざんの防止に役立ちます。
また、法的要件に基づくデータの保管・管理が確実に行えるため、法令遵守の面でも大きなメリットがあると言えるでしょう。
スキャナ保存に向いている書類
一部の書類には、税務上の負担が緩和されている文書があります。(規則第3条第6項に規定する国税庁長官が定める書類)
- 検収書
- 見積書
- 注文書
- 定型的約款がある契約における申込書
国税庁が告示で定めた「一般書類」と呼ばれるものは、契約書と異なり重要な書類でないものとして、「速やかに入力」ではなく「適時入力」、つまりしばらく経過してからスキャニングすることが認められています。
こうした一般書類が大量に存在する場合は、スキャナ保存の要件を守ってスキャンすることで原本を廃棄でき、デジタル化を図れるでしょう。
保管スペースが不要になり、ペーパーレス化を促進できるので、一般書類はスキャナ保存することを検討してみてはいかがでしょうか。
契約書のスキャナ保存のやり方
契約書のスキャナ保存は、前述した要件を満たす必要があります。
加えて、スキャンデータの証拠としての法的な有効性はあくまで「準文書」としてになります。電子帳簿保存法で廃棄可能であっても、契約書の原本は保管しておくと安心です。
スキャナ保存する際、ファイル形式は問われていませんが、迷ったらPDFで統一するといいでしょう。電子帳簿保存法に関する国税庁の資料では、PDFによる電子保存を前提として記載されているためです。
また、JPEGにはページの概念がないため、その点においてもPDFを使用するのが望ましいでしょう。
正確に読み取ったりスキャナの故障を回避するために、契約書に貼られている付箋を外す作業も必要になります。
実際の運用では、電子帳簿保存法および同施行規則における保存要件との関係上、スキャンしたPDFデータから必要データを抜き出して台帳に入力する「自動スキャン機能」付きのシステムを導入するのがおすすめです。
契約書をスキャナ保存する際の注意点
契約書をスキャナ保存する際は、以下の2点に注意しましょう。
- スキャナ保存作業の手間がかかる
- 訴訟上の効力が弱くなる
ここでは、それぞれの注意点について解説します。
スキャナ保存作業の手間がかかる
紙の契約書をスキャンする作業は、時間や手間がかかります。契約書の作成・保管数が多い会社であれば、なおさら多くのリソースが必要になるでしょう。
スキャン作業だけでなく、ステープラーや付箋外し、スキャンした書類の片付けなど、スキャン前後の作業にも手間がかかります。
抜本的な対策としては、電子契約の導入によるペーパーレス化です。電子契約であれば、紙の契約書を作成する必要がないので、スキャン作業が必要ないでしょう。
また、ほとんど参照しない契約書はスキャン対象から除外するといったように、作業に優先順位を付けることもおすすめです。
法的効力が弱くなる
民事訴訟法において、スキャンした契約書はあくまで複製であり「原本」として扱われません。そのため、法的効力が弱くなる可能性があることに注意が必要です。
2 裁判所は、前項の規定にかかわらず、原本の提出を命じ、又は送付をさせることができる。
引用元:民事訴訟規則
規則に明記されている文書は、「原本、正本又は認証のある謄本」。コピー文書は文書として認められない可能性があり、コピー文書は改ざんしたものとして効力を否定される可能性が考えられます。
そのため、訴訟に備えるためにも紙の原本は保管するのが望ましく、スキャンした契約書は紙契約書の代替にならないと理解しておきましょう。
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