【東急が実践】「任せる」と「守る」を両立する、kintone市民開発のガバナンス設計
「トヨクモkintoneフェス 2026」は、トヨクモが主催する年に一度のオンライン+リアルイベントです。
2026年のテーマは「みつかる、かなえる、キントーン」。さまざまな業界で活躍中のユーザーの皆様から、kintone+トヨクモ製品の便利な使い方をご紹介いただきました。
今回は、東急株式会社 千野陽太氏より、後発だからこそ実践できた市民開発のガバナンス設計と、FormBridge・kViewerの運用改善についてお話しいただいた内容をご紹介します。
目次
自己紹介
こんにちは、東急株式会社(以下、東急)の千野です。本日は「市民開発を安心して広げるkintone×トヨクモ製品の運営設計とガバナンス」というテーマで、運営設計やガバナンスに絞ってお話しします。
私は東急が3社目で、これまではデジタルやIT、人材育成に関わる仕事をしてきました。東急では、市民開発事務局(以下、事務局)の立ち上げと運営に加え、全社的なデジタル人材育成の企画・運用を担当しています。
kintoneを触り始めたのは、東急に入社してからです。kintone歴はまだ浅いのですが、後発だからこそ気づいたこともあります。本日は、その中から一つでも参考になるものを持ち帰っていただければと思います。
現場が自分たちで業務改善する「市民開発」を開始
東急と連結会社では、非常に多くのシステムを活用しています。そのすべての改善要望を情報システムやIT部門だけで受け続けるのは難しく、システム上の文言を少し直すだけでも、外部へ依頼すれば費用や時間がかかる場合があります。
そのような状況の中で、社内からも「自分たちで改善できたらいい」という声が出てきており、近年の市民開発ブームも受けて、2024年8月から市民開発の準備を開始しました。2025年2月には、全社横断的にこれを支援する「市民開発事務局」を設けています。
事務局では、kintoneのライセンス管理や業務改善の伴走支援を行っています。社員から相談を受けたら、まず課題を整理し、「この業務フローであればこの部分でkintoneが使えますね」と一緒に考えながらアプリを開発します。さらに、kintoneに触れてもらうためのハンズオン体験会やワークショップも実施しています。
こうした取り組みを経て、特に大きな成果が感じられたのが、ITに苦手意識を持っていた社員の変化です。最初は「自分にできるのか」と不安そうだった人が、実際にアプリを作ることで「自分たちでもできるんだ」と感じてくれる。その経験が、「次はこんなものを作れないか」という前向きな改善行動につながっていると感じています。
後発だからこそ、トラブルが起きる前にルールを作った
東急は、kintoneを使った市民開発という分野では、かなり後発です。だからこそ、何を最初に整えるべきかを考えたうえで市民開発をスタートできました。社内文化的にも「安心・安全」を重視しているため、この市民開発においても立ち上げ前にガバナンスを策定し、そこから具体的な利用ルールへ落とし込みました。
kintoneやkintone連携サービスについても、正式な立ち上げ前に複数部門でトライアルを実施し、ガバナンスや利用ルールが実際の業務に適用できるかを確認しています。
問題が起きてから統制を追加するのではなく、市民開発を広げる前に運用の土台を作ったことが、東急の取り組みの出発点となりました。
ここで設計したガバナンスのポイントは、大きく3つです。
利用ルールを明文化する
1つ目が、利用ルールの整備です。アクセス権限やアプリの命名規約など、市民開発者に守ってほしい内容を明文化しました。開発者によって判断が分かれないよう、共通の基準を用意しています。
300以上のアプリを市民開発事務局で把握する
2つ目は、シャドーIT(野良アプリ)と属人化の防止です。
東急では300以上のアプリが稼働していますが、事務局が全アプリを把握しています。棚卸しやチェックも行い、管理されていないアプリや、作成者しか仕様がわからないアプリが残らないようにしています。
ここまで聞くと、「かなり厳しく管理しているのではないか」と思われるかもしれません。ただ、ルールと同じくらい、業務改善のスピードや現場の使いやすさも重要です。その考えのもと、事前に「現場に任せる範囲を設計しておく」ことで安心・安全とスピードを両立させています。
開発中は自由度を持たせ、本番利用前にチェックする
3つ目が、開発フェーズと運用フェーズを分けることです。
アプリを作っている間は、開発用のスペースや環境で比較的自由に作業できます。
実際の業務で利用するときにはリリース申請が必要です。事務局では、利用ルールに沿っているか、アクセス権は適切か、特定の担当者だけに依存していないか、ほかの人が担当できる状態になっているか、マニュアルが用意されているかといった点を確認します。
問題があれば開発者へ戻し、修正してから再度リリース申請を行ってもらいます。問題がなくなればリリースとなります。
ガバナンスや利用ルールは、現在も継続して更新しています。こうしたガバナンスの徹底により、これまで大きなトラブルなく市民開発を進められています。
市民開発事務局単体でのFormBridge・kViewer管理が負荷に
東急では、3種類のトヨクモ製品を導入しており、特にFormBridgeとkViewerの利用が進んでいます。この2製品も、当初は事務局が作成・保守を一元管理していました。管理権限を広く付与すると、意図しない情報公開や誤操作のリスクがあるためです。
一方で、利用が広がるにつれて、事務局が管理するフォームやビューは200以上に増加しました。
軽微な修正から重要な確認まで依頼が集まり、現場からも「事務局が忙しそうだから頼みにくい」という声が出るようになりました。
安全性は保てた一方で、現場の業務改善スピードが落ちるという課題が出てきました。
「任せる人と範囲」を決めて権限を委譲
2025年下期から、必要な部門・担当者に限定してFormBridge・kViewerのユーザーライセンスを追加しました。
参考:【トヨクモkintone連携サービス】ユーザーライセンスとは?メリットや活用例を紹介
ポイントは、ライセンスを広く配るのではなく、「任せられる人と範囲を決めた」ことです。ライセンスを購入してそのまま運用してもらうのではなく、ガバナンスに基づいて「誰が持つか」「どういう役割で持つか」を慎重に決めました。
特に「誰が持つか」という点については、フォームやビューの一覧から部門ごとの利用状況を数値で確認し、新規作成・運用が多く発生する部門を特定。さらにその中でも、市民開発者として自走できるスキルを有している社員にのみ配布しています。
また、権限を持った担当者が迷わず運用できるよう、ユーザーライセンス利用者向けの専用スペースも作りました。
作成手順や運用ルールを一か所にまとめ、「あのルールはどこに書いてあっただろう」と探さなくても、ここを見れば確認できる状態にしています。
事務局が200以上のフォームやビューを作成・運用する中で蓄積したノウハウも、オリジナル教材として集約しました。教材は、事務局のメンバーが自ら作成しています。
セキュリティ面では、設定漏れを個人の注意だけに任せない工夫も取り入れました。
たとえば、東急ではIPアドレスの設定を重視しています。必要なIPアドレスがあらかじめ設定されたフォームやビューのテンプレートを用意し、作成時には必ずテンプレートを使用する運用にしています。
フォームやビューをリリースするときには、kintoneアプリと同じようにリリース申請を行います。事務局が設定やルールを確認してから本番利用へ進むため、現場に編集を任せたあともチェックの仕組みは残しています。
運用の見直しで市民開発事務局の負荷を大幅削減
運用を見直した結果、kintone連携サービスに関わる事務局の作業時間は50%以上減少しました。
現場側の「事務局に負担をかけるのではないか」という遠慮も減り、「自分たちでやりたい」という動きが出るようになっています。
軽微な修正を依頼して待つ時間がなくなったことで、現場の改善スピードも上がりました。
一方で、権限を渡したことによる大きなトラブルは起きていません。ガバナンスと利用ルールは今も継続的にアップデートしており、当初から掲げていた「安心安全」とスピードを両立できている状態です。
仕組みを更新しながら、現場への「任せ方」を育てる
最後に、今後の展望についてお話しします。
東急では、文化的にも歴史的にも安心・安全を大切にしています。同時に、自分たちで業務を改善していく文化も育てていきたいと考えています。
今回、FormBridgeとkViewerの運用を見直したことで、現場へ業務を移しても、ルールや確認の仕組みを組み合わせれば安心・安全を保てることが見えてきました。
誰に任せるのか。どこまで任せるのか。どのルールを守ってもらい、困ったときにはどう支えるのか。
こうした運営の仕組みは、一度決めて完成するものではありません。
私たちもこれから議論やトライを続けながら、安心・安全と業務改善のスピードを両立できる「任せ方」を育てていきたいと考えています。
ご登壇ありがとうございました!
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