トヨクモが主催する「トヨクモ kintone フェス 2023」は、デジタル化して効率的に業務改善する珠玉のアイデアを学び・広める、2日間のオンラインイベントです。2023年のテーマは、「やれるっ、できるっ、キントーン!」で、よりトヨクモ製品をカンターンに活用し、業務改善ができる、そんな活用の事例をご紹介いただきました。
今回は、別府市 企画戦略部 情報政策課 デジタルファースト推進室の明田舞子氏に語っていただきました。
別府市の紹介
まずは、簡単に別府市について紹介させていただきます。
別府市は大分県の東海岸のほぼ中央に位置します。緑豊かな山々と波穏やかな別府湾に囲まれた美しい景観の間には、大地から立ち上る湯けむりがたなびき、別府を象徴する風景として親しまれています。
人口はおよそ11万3,000人で、源泉数は約2,200、湧出量は1分間に約83,000リットルと、ともに日本一の温泉地です。
デジタルファーストのまち「別府」
別府市は温泉のまちとして有名ですが、実はデジタルファーストのまちでもあります。2019年6月に日本の市町村で最初にデジタルファーストを宣言し、2021年にはデジタルファースト宣言をアップデートする形でデジタルファースト推進計画を策定しました。
そのような別府市が、どのようにkintoneやトヨクモ社の製品と出会い、活用が広がっていったのかをお話ししたいと思います。
別府市が抱えている課題
どこの自治体でも同じような課題があるかとは思いますが、少子高齢化によって職員は減る一方で、地域の課題の複雑化や災害対応など、業務量は増加しています。しかし自治体では電話や窓口での対面による対応に多くの時間が割かれており、デジタルによる事務の効率化は急務であると感じていました。
新型コロナウイルスという未曾有の課題
そのような状況のなか、新型コロナウイルス感染症の発生拡大により、課題をより明確に突きつけられることになりました。コロナ禍という未曽有の出来事に見舞われ、行政だけでなく民間企業の方も、働き方をシフトせざるを得ない状況にあったと思います。
別府市も例外ではなく、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、デジタルの力を活用していく必要に迫られる状況が多くなりました。その対策として非対面・非接触・3密を避けるために活用したのが、kintone・トヨクモ社製品であり、コロナ禍における救世主でした。
コロナ禍の救世主としてkintoneとトヨクモ製品を導入
具体的な活用事例として、避難所運営システムをご紹介したいと思います。
防災担当課は、コロナ禍における避難について早急に対応しなければならないと強い危機感を抱いていました。県への避難者数の報告が4時間おきから1時間おきに変更になったほか、基礎疾患の有無や年齢などで区分けしたうえで適切な避難区画に案内しなければならないなど、コロナ禍における避難所運営は大きく変わっていたことが背景にあります。
また、自然災害の発生と感染拡大が重なれば避難所が混乱することが予想され、感染を恐れて避難をためらう市民が出ることも懸念していました。そこで、密な状況を避けつつ市民が安心して避難できる仕組みを構築したいと情報政策課に相談があったことが、避難所運営システムを開発するきっかけです。
活用事例
このシステムは、3つのシステムで構成されていますが、最初からすべてを開発したわけではありません。まずは、各避難所の避難者数をホームページ上に公開するところから取りかかりました。
まず、避難所ごとの避難者数表示システムについて概要をご説明します。最初はkintoneに避難所のマスターを登録し、開設した避難所とその避難者数をkViewerのリストビューで表示させてインターネット上に公開するというシンプルな仕組みでした。
導入当初は防災担当課で取りまとめて入力することを想定していましたが、各避難所の担当者が避難者数を登録できるフォームを作成しました。このフォームも、トヨクモ社のkViewerとフォームブリッジで作成しています。この仕組みにより、1時間おきの避難者数をリアルタイムでホームページ上に表示できるため、避難したい市民の方が安心して避難できるだけでなく、避難所を運営する職員の負担軽減にもつながっています。
機能のポイントとしては、kintone上にあらかじめ避難所マスターを準備しておいて「開設」にチェックを入れることで、ホームページ上に開設避難所一覧をすぐに表示できる点と、各避難所の職員が避難者数を直接フォームに入力するためリアルタイムに避難者数が更新される点です。
次に、避難所入所時の滞在区分判定システムについての概要です。コロナ禍における避難は、年齢や基礎疾患の有無に応じて避難所内でゾーニングをする必要があったため、避難所入所時における滞在区分の判定ができるシステムを構築しました。このシステムにより、それまで避難所担当の職員が紙と目視で区分を判定していましたが、システムで自動判定できるようになりました。
市民側が入力するフォームはフォームブリッジで作成し、避難所職員はkViewerから入力一覧をリストビューで見ることができ、対象者の評価表をプリントクリエイターを使って印刷することも可能です。
このシステムの機能のポイントは、市民の方が避難する前にWebから入力ができる点と、事前に自分の区分が把握できる点です。このシステムを活用することで、避難所入所時に受付番号を伝えるだけでスムーズに然るべき避難ゾーンへ誘導することも可能となりました。また、仮に事前に作成をしていなくても、これまで避難所職員が目視で判定していたものが自動で判定できるため、負担軽減の一助となっています。
最後に、避難予定者数を事前入力するシステムの概要です。現時点での避難者数だけでなくこれから避難する人数を市民に入力してもらい、避難者数の表示に反映させたいと防災担当課から相談がありました。そこで、避難所ごとの避難者数表示システムに避難予定者数を表示させる機能を追加し、市民向けの避難予定者数入力フォームをフォームブリッジで構築しました。
このシステムの機能のポイントは、避難する方の任意で活用していただくことで、より正確に避難所の混雑状況を可視化できる点です。
避難所運営システムの構築による効果
これらの避難所運営システムを導入した効果ですが、まず市民の安心・安全に寄与できたと実感できました。システム構築後にさっそく豪雨災害が発生し避難所を開設したのですが、ページの閲覧数が約4700回と、市民からのニーズが一定数あると感じました。
防災担当課の職員からは、これまでは各避難所から電話で報告を受けて取りまとめていたものが、オンラインでリアルタイムに更新されるため作業時間が大幅に削減できたという、嬉しい言葉もいただきました。
さらに、この避難所運営システムを利用して避難者数を入力していた職員から、後日自分の業務でもkintoneを活用して業務の効率化を図りたいという相談があり、業務改善に至ったという副次的な効果もみられました。
このシステムはオープンデータとして公開しており、これまでに6つの自治体にテンプレートを提供し、横展開もしている状況です。
他の業務でも活用が進むkintone・トヨクモ製品
今回は事例の一つとして避難所運営支援システムをご紹介しましたが、ほかにもプレミアム付き地域商品券の予約販売システムや、ワクチン接種のキャンセル待ちや予約の登録、別府市の名産品「ざぼんサイダー」の受注納品管理など、kintoneやトヨクモ社製品を活用した事例があります。
市民により良い行政サービスを提供するための自治体DX
最後に、自治体DXの取り組みは今後ますます加速・拡大していくものと考えています。そのようななかで、自分たちで仕組みを構築できるローコードツールやクラウドサービスの活用は、自治体のDX推進において有効な手段です。
新しいクラウドサービスが日々提供されているなかで、システム構築を専門業者に委託する方法から、課題解決の仕組みを自分たちで作る方法への変革ができる環境が整ってきています。
別府市では、2019年の「BEPPU×デジタルファースト」宣言からアップデートする形で、コロナ禍の2021年に「BEPPU×デジタルファースト推進計画」を策定しました。この計画では、デジタルファーストの目的を「市民のためのデジタルファースト」とし、将来的にはスマートフォンを利用して24時間365日どこからでも行政サービスが利用できることを目指しています。
キャッチフレーズは「ポケットの中にもう一つの市役所を」。目標として、「行かなくていい市役所」「待たなくていい市役所」「情報を直接届ける市役所」、また市民サービスの提供を支える「行政運営の変革」の4つを掲げています。
今後も「BEPPU×デジタルファースト」の実現に向けて、現状に満足することなく新しい取り組みに積極的に挑戦し、市民のためのデジタルファーストを推進していきたいです。