トヨクモが主催する「トヨクモ kintone フェス 2024」は、25以上のkintone+トヨクモ製品の活用例を大公開する年に一度のオンライン+リアルイベントです。
2024年のテーマは「きっと、もっと好きになる、kintone」で、さまざまな業界で活躍中のユーザーからkintone+トヨクモ製品の便利な使い方をご紹介いただきました。
今回は、スペシャルゲストにM-SOLUTIONS株式会社 植草学氏、TIS株式会社 多田功氏のお二方をお招きし、当社トヨクモ代表 山本を交えた3人でkintoneの未来をテーマに対談を行いました。
生成AIと大規模活用の2つをトピックに、これからのkintoneについて深く語っていただきましたので、kintoneの現状と未来の可能性について知りたい方は、ぜひご一読ください。
はじめに
山本氏
皆様、こんにちは。本日は、kintoneの未来についてというテーマでお話をさせていただきます。
昨今、未来を語る上で欠かせないテクノロジーとなった生成AIと大規模活用の2つについて考えながら、深くお話しできればと思っております。
kintone×生成AIの現状
山本氏
まずは、一昨年から大きく取り上げられている生成AIについて、現状kintoneではどの程度生成AIを活用できるのか、植草さんご教授いただけますでしょうか。
植草氏
M-SOLUTIONS株式会社 代表取締役社長 CEOの植草です。本日はよろしくお願いします。
生成AI自体については、皆さんもChatGPTが出てきて衝撃を受けたかと思います。プロンプトを書いて利用する方が出てきている一方、実はまだ実際に使っている人の割合はそこまで多くありません。
存在は知っているという方が7〜8割ほどで、使っている方はおよそ1〜2割ほどというのが、国内の生成AIに対する現状なのかなと考えております。
当社も毎月のようにセミナーを開いて、「生成AIはこういうものです!トライしていきましょう!」といったお話しをしております。しかし、具体的にどう使うのかみたいな部分でやっぱりつまずきが出てくるので、まだこれからなのではないでしょうか。
ただ、すぐに使えるようにしていくことが我々の使命だとも考えています。AIを民主化して全員に使ってもらうために、当社ではkintoneに乗せて簡単に使えるAIサービスを開発し、無料版も含めて提供を開始したというのが現状になります。
「Smart at AI」について
山本氏
植草さんのところで出された製品について、実際にkintoneを使ってどのようなことができるのか簡単に教えてください。
植草氏
我々の製品は、kintone上で簡単に生成AIを使うことができる「Smart at AI」というものです。2023年の10月末にリリースいたしました。
アプリに簡単なプロンプトを設定しておくことで、kintoneフィールドの値をプロンプトに簡単に挿入することができます。
生成ボタンを押すとサーバー側でプロンプトを自動生成してくれるため、短いテキストの入力だけでセールストークのような長いシナリオを生成できるようになります。
管理者が事前に必要な設定をしておけば、利用者はデータを入れるだけで生成AIが使えるようになるというのがポイントです。
当社がセミナーをやっている中、実際にプロンプトを書ける人は全体の1〜2割というのが現状です。
ボリュームのある日本語を上手く、綺麗に書くことは難しいので、それができる人のノウハウを利用して、自分のデータだけを入力すれば引き出せるようなサービスになっています。
山本氏
そうすると、設定さえしておけば全従業員の方が同じ品質で使えるようになるということですね。
植草氏
はい。なので、全員がプロンプトの学習をせずとも、1人や2人、誰かがちゃんとしたプロンプトさえ書ければ、その人のテクニックとか精度で全員が生成できるようになります。
山本氏
それは便利ですね。ありがとうございました。生成AIもkintoneでの活用となると、ここまで実用的なものになっているのですね。
kintone×大規模活用の現状
山本氏
次に、大規模活用のお話をさせていただきたいと思います。
kintoneの連携サービスを提供している私どもが言うのも何ですが、やはりこれまでkintoneは中小企業向けという考えが強くありました。
それがコロナ禍から自治体を中心に大規模で使われる事例が出てきまして、その発火点となったのが、当時、加古川市で勤務されていました多田さんの取り組みになります。
大規模にkintoneを活用されていく上でのご苦労であったり、ここまでの道のり、現状などについて多田さんからお話しいただければと思います。
多田氏
ご紹介ありがとうございます。いきなりハードルを上げられてしまいました。改めて、加古川市で元職員をしておりまして、現在TIS株式会社に勤めている多田と申します。
早速ですが、加古川市の事例として2つご紹介できればと思っております。
事例1.特別定額給付金の申請
多田氏
1つ目は、特別定額給付金の事例です。10万円の給付金が全国一律で給付されるときに、kintoneのシステムを大規模で使わせていただいたものになります。
加古川市のおよそ10万世帯に郵送で申請書を送るのですが、どう処理するのかが課題になっていました。当時、マイナポータルでの申請もありましたが、当時はまだ取得率が低かったので、ほとんどの世帯が紙での申請になっていました。
先ほどAIの話がありましたが、当初はAI-OCRを使う話が出ていたんです。でも、皆さん達筆なのもあってなかなか読み取れず、精度面での問題が出てきました。
膨大な紙のデータ化を手作業でやると相当な労力がかかるので、これをどうにか解決できないかとなり、使わせていただいたのがkintoneとFormBridge、kViewerになります。
実はこのときのシステム、家に帰る途中に思いついたんです。家に帰って作って次の日に見せるというスピード感で、1日〜2日というかなりの短期間で構築しました。
加古川市が注目された点としては、作ったものをオープンデータのカタログサイトに乗せて公開し、他の自治体でも利用できるようにしたことが大きかったと思います。
受け取る情報もデータで来て、kintoneの1画面でチェックできるので、正確さを確保しつつ、迅速に対応できました。
結果、申請されてから1週間くらいで給付まで持っていけたと思います。金融機関ごとの振り分けの関係もあって1週間でしたが、自治体で行う給付手続きの処理自体は1日で完了していました。
事例2.新型コロナワクチンWeb抽選申込フォーム
多田氏
もう1つは、新型コロナワクチンの集団接種の事例です。事例以前、コロナワクチンが少なかったときは先着順で一斉に申請を受け付けていました。
最初は、加古川市の80歳以上の方を対象にしていたのですが、対象者が2万人そこそこぐらいだったはずが、1回目の予約サイトを開けたらまさかの50,000PV。ご家族の方が手伝おうと参加されたのかと思うのですが、まるでチケットぴあの先着発売みたいになりました。
そして2回目、なんと130万PVです。加古川の人口は26万人なので、もはやサイバーテロです。これはサーバー落ちるなという状況で、議会からも市民の皆さんからも相当なお叱りを受けて、3回目どうするのかという話になりました。
ここまで進んだ以上止められないし、でも130万PVなんて耐えられないし、どうしようと考えて私が導き出したのが抽選方式でした。
FormBridgeとkViewerを使ったシステムになりまして、全高齢者の方に自分が希望される日時・接種会場などを入れていただきます。1回入力したら再入力の手間はありません。
皆さんには、「ずっと外れることはありえません。いつか当たりますので、お待ちください。」ということを説明しました。そうすると、混乱が収束したんです。
また先着順では、ご家族や近辺の方が同じタイミングで取ることができず、手間がかかるという問題がありました。そこで、ご家族や近所のお付き合いの方であれば1人まで同時に申請していいですよというフォームを作ったのですが、これもかなりご好評でした。
こちらのシステムもオープンデータカタログサイトに掲載しまして、当時ワクチン担当大臣だった河野太郎さんのX(旧Twitter)に乗せていただくなど、非常にいい事例になったと思います。
https://x.com/konotarogomame/status/1394519904900960259
山本氏
これでようやく、kintoneも少しは大規模で使えるようになったと思っていいのでしょうか?
多田氏
そうですね。どのように業務を組み立てるかという部分はありますが、処理ができるという点で、これまでと違っていろんな自治体も使えるようになったのではないかと思います。
また、皆さんよく言われることなのですが、自分たちでデータを作らないといけないというプレッシャーから解放されるのは非常に大きいメリットなのではないでしょうか。
これは、FormBridgeやkViewerがあるからこそできるものだと思います。
kintone×AI×大規模利用の可能性
山本氏
これから生成AIの活用も含めて、どのようにkintoneが大規模活用されていくのかというイメージについて、植草さんはいかがですか?
植草氏
生成AIを使ってやりたいことって、例えば問い合わせをして答えてもらうとかだと思います。
FormBridgeで問い合わせを受け付けたらkintoneに直接問い合わせが入ってデータ管理ができますよね。
ここに生成AIを入れると、今度はその問い合わせに対する回答案を出力するとか、優先度やジャンルでカテゴリー分けするみたいなことができるようになります。
こういった作業は当然人がやるよりも精度も高くなっていくので、学習のデータを入れていけば、近い未来、すぐにでもできるようになると思います。
優先度を決めるのは誰か
山本氏
優先度を決めるのって人がやる作業の典型的なものにも思うのですが、生成AIを使って上手く優先度を決められるものなのでしょうか?
植草氏
そこは上手く日本語を入れていけば作れると思っています。結局、優先度って人が何かに重みをつけて決めていますよね。
例えば、「障害」とか「課金」などのキーワードがあれば優先して返さなきゃいけないとか、自分たちでルールを決めていると思います。
いままでプログラミングで設定していた部分を今度は日本語で書くんです。「こういうルールで優先度を作ってください」、「Aなら優先度を100にしてください」と設定していけば、優先度が高いものから順に回答していけるようになります。
多田氏
多分、どのぐらいのスパンで回答したか、何時に問い合わせを受けて何時に回答が終わったかみたいなことも学習して活かせますよね?
植草氏
いま私たちがやっているのはLLM(大規模言語モデル)ですが、これにディープラーニングを組み合わせると、蓄積したデータから推測することもできるようになります。
この先、いろんな組み合わせが出てくると思うので、人はルールだけを決めておいて、改善するところまでAIにお願いできるようになるのではないでしょうか。
プロンプトの必要性
山本氏
kintoneの中で精度の高い回答を生成しようと思うと、やっぱりプロンプトを入れていく必要がありますか?
植草氏
これは、最初に製品を作った時の苦労話になります。学習をさせるのか、させないのか、どこに学習をさせるのかって、いまいろんな会社でやられているんですね。
ファインチューニングを行って、ハルシネーションが起きないようにするみたいなことなのですが、これをすると結局ものすごい学習コストがかかってきます。また、どれを学習させたら、どのくらいの精度が出るのかもまだ分かっていません。
ハルシネーション……生成AIが誤った回答やもっともらしい誤情報を生成する現象
そのため私たちは、プロンプトの中にある程度データを入れれば、ちゃんと回答が作れますよという方向にフォーカスして取り組んでいます。そうすることで、誰でも気軽にプロンプトの中にデータだけを入れて使えるようになります。
例えば、FAQ100個とかであれば、いまでも全然読み込めるレベルにはなっているので、事前に入れておいて模範回答を出すみたいなことはできるようになるかなと思います。
山本氏
商品リストとかそれぐらいは、全部覚えさせてスッと合わせられるといいですよね。
植草氏
そうですね。それくらいはすぐにできるようになると思います。読み込めるデータと出力できるデータの量が、今もこれからもどんどん増えていきます。
それこそ、PDF300ページくらいなら読めますみたいなものも出てくるので、段々大きいデータを読んで出力することもできるようになってきています。
山本氏
そうなんですね。最初に学習させる手間はありますが、自治体やエンドユーザー向けにも良さそうですね。
AI活用におけるセキュリティ
多田市
自治体でもだいぶ変わりますよね。やっぱり、AIを使っていく中で個人情報をどうするんだみたいな話がどうしても出てきますが、そこに寄らない使い方もあると思います。
誰が何を言ったかではなく、こういう問い合わせがありましたという情報であれば大丈夫なので、そこに恐れを抱く必要もなさそうですし、可能性はかなりありそうです。
植草氏
一般的な質問文と回答分だけを集めるとかは全然できますし、個人名などは削除すればいいので、そこは逆にkintoneが得意な部分なのではないかなと思いますね。
何年後を見据えるか
山本氏
気持ちとしては、何年後くらいの未来のイメージで準備しておけばいいのでしょうか?
植草氏
もう半年とか1年とか、そういうレベルでどんどん進化していくので、できることから試していくべきだと思います。
試してみて、精度が足りなければまだ早かったんだなと判断する。そして、また半年後にやってみようぐらいのレベルがいいのではないでしょうか。
それこそ使えたら生産性の桁が変わってくるので、モデルが変わったときにやるぐらいのレベルがいいと思いますね。
山本氏
トヨクモの問い合わせ対応にも入れてみます?本当に、すぐにでも始めないといけないですよね。
AIによって人はいらなくなるのか
植草氏
いまはまだ私の方が頭がいい、AIに勝ったみたいに人と比べてるぐらいのレベルですが、10年とか20年後、知識の量は10倍、1万倍とかになってくると思います。
そうなると、もはや人と比べるのは違うよねとなってきそうです。
山本氏
どんどん人がいらなくなっていくのでしょうか……。
多田氏
やらないといけないことは減りませんし、どんどん違うことができるようになるので、私は決して人がいらなくなることはないと思います。
残り続ける別の業務があるので、特化できる人がやるべき業務に特化できるようになっていくのではないでしょうか。
例えば、今まではプログラムを別の言語に移行したいとなれば、新しい言語を覚えないといけないということがずっと繰り返されていたじゃないですか。
AIならコーディングもやってくれるので、そういった作業は不要になって生産性が上がりますし、次のステップに早く進めるようになるのが大きいのかなと思いますね。
植草氏
AIは自立すると危ないということもあり、いまは基本的に指示しないと動きません。
指示するのは誰かと言えば、それは人間であって、いまは適切に指示していくフェーズにあります。これから数年はそのフェーズにあるのかなと思いますね。
山本氏
逆に、そのフェーズでちゃんと指示できるようになっていないと、次のフェーズになったときのギャップはどんどん広がっていきますよね。
DXについても、いろんな企業で成功されている印象がありますけど、実際に成功している比率は、そこまで多くないのではないかと思っています。なので、AIの方はもっと差が生まれていきそうです。
生成AIの過渡期を生き抜く
植草氏
AIは得意なところに当てればものすごく精査性が上がるので、やっぱり得意なところを上手く活用していくのが今後とても大事になると思います。
山本氏
得意なところを見つけ出して、自分のものにするためにも、いろいろ試していかないといけないですよね。
植草氏
そうですね。いまはまさに試すフェーズだと思います。新しい移動手段が出たときとか、産業革命が起きたときもそうですが、最初は怖いと思うんです。
最初にインターネットが出たときも、危ないから使わないなんて言われていましたが、いま使わない人なんていないし、大阪までわざわざ歩いていく人もいないじゃないですか。
いま、AIも同じように過渡期にいる出てきたばかりの存在です。今後、上手くパッケージ化されて事例が出てきたら、勝手に皆使っていくのではないかと思います。
まずは、試してみることが大事です。自転車の練習と一緒でちょっと練習してみたら勝手に乗りこなせるようになると思うので、ぜひ生成AIも試してみてください。
kintone×大規模活用の未来
山本氏
最後に、kintoneの大規模活用の未来について、多田さんいかがでしょうか?
多田氏
そうですね。最近、地震などが起きて大変なことになっていますが、そういった際にすぐ作れるかどうかは、すごく大事だと思っています。
また、システムをオープンにしてサイトに出しておけば、すぐにコピーできる状態になるので、それらを横展開できるのは自治体にとって大きいのではないでしょうか。
例えば、支援物資がどこにあるのかを示すものってすぐに作れるじゃないですか。それを1つのパッケージにしてあげて、本当に困っている自治体に配ってあげたり、避難所の位置を一覧にしてデータ提供してあげたりってできると思うんですね。
そういったところから、できる人がどんどん作っていって、それを公開して、共有してあげるのが一番いいんだろうなと思っています。
山本氏
第2の多田さんが出てきてくれればいいですよね。皆さんには、どんどん横展開を広げてもらいたいですね。
多田氏
もっとすごい方はたくさんいらっしゃいますよ!それぐらい簡単に作れるものなんです。結構自治体の中でもkintoneってどうやって使うんだって聞かれるんですけど、使ってみたら分かる話だと思っています。
先ほどのAIの話じゃないですが、実際にやってみればできないことも分かるし、できることも分かります。足りない場合は、プラグインをつければできるようになるのも、やっぱりkintoneの大きなメリットだとは思いますね。
どこかの自治体が作ったものをコピペして使えるのも大きいですし、実は過去私が公開したオープンデータに関しても海外からアクセスがあるんですよ。
いま多くの給付がこのモデルになっているのではないかと思いますので、結構昔の話ではありますが、改めてすごく大きな社会変革をもたらしたんだなと思います。
植草氏
kintoneというプラットフォームだからこそ、コピーしてすぐに使いやすいというメリットは1つありますよね。
止まっていても仕方がない
山本氏
自分たちでどんどん使っていきながら、これはできる、これはできないに気付いていかないと、この変化の時代には追いつけないんでしょうね。
多田氏
止まっていても仕方がないし、やるしかないじゃないですか。やってダメなら直せばいいだけです。できないことがあれば、誰かの助けを借りるのもいいと思います。
植草氏
みんなで知恵を出していければいいですよね。
山本氏
成功モデルを早く作り上げて、皆で横展開して共有しながら、生産性全体が上がっていくことの方がよっぽど重要ですからね。
私たちトヨクモ自身でも、どんどん使っていきたいと思います。本日はありがとうございました。