トヨクモが主催する「トヨクモ kintone フェス 2023」は、デジタル化して効率的に業務改善する珠玉のアイデアを学び・広める、2日間のオンラインイベントです。2023年のテーマは、「やれるっ、できるっ、キントーン!」で、よりトヨクモ製品をカンターンに活用し、業務改善ができる、そんな活用の事例をご紹介いただきました。
今回は、近畿大学情報学研究所長 特別招聘教授 夏野 剛氏に語っていただきました。
近年、対話型AIや生成型AIなどの話題が数多く取り上げられ、これからやってくるAI時代に対してどう備えるべきか思案している企業も多いでしょう。
最新のテクノロジーを導入するには、さまざまなリスクもあります。しかし、新たなテクノロジーを取り入れて進化しなければ、他社に負けてしまう未来が待っているかもしれません。
この記事を読むことで、AIという武器を手に戦う方法がわかります。ぜひ、ご一読ください。
インターネットが普及した1990年代
山本氏
私は1990年に野村證券に入って、営業職として10年ほど働いていたのですが、インターネットの出現によって時代の変化を確信しました。テクノロジーによって世の中が変わっていく中で、インターネットは特に可能性を感じたんです。その当時、夏野さんはどのようなことをしてらっしゃったのでしょうか?
夏野氏
僕は1993年から95年にアメリカに留学していました。当時通っていた大学は、経営の大学院で、いわゆるMBAというものです。
93年から95年という時期は、ちょうどアメリカでインターネットが勃興する時代でした。例えば、94年にネットスケープという商用ブラウザが初めて出てきて、94年の12月にヤフードットコムがシリコンバレーのガレージでサービスを開始する、というような時代です。
その当時、僕の行っていた大学院で、94年の9月からの授業に「インターネットがどうリアルビジネスに影響を及ぼすか」というコースが、すでに存在してました。テクノロジーオタクだった僕が経営の大学院に行ったら、インターネットのことを学ぶ、という趣味と実績の一致が起きたわけです。その当時に僕がMBAに行っていたことが、僕の人生を全部変えてしまったと言えるんじゃないでしょうか。
山本氏
その時に、アメリカでインターネットの勃興を見て感じたっていうのは、けっこう大きい影響を及ぼしたのですね。
夏野氏
そうですね。当時まだアメリカでもそんなにアプリケーションは出ていなかったんです。インターネットとリアルビジネスに関する授業では、HTMLでいろんなものを作成するということもやりつつ、重要なポイントはディスカッションなんです。
例えば、銀行のATMの仕組みがこのネットワークがインターネットに繋がると、どういうことが起こるのか、ビジネスモデルはどう変わるのか、ということをみんなでディスカッションする。あるいは、証券取引のシステムがインターネットに解放されると、これから証券会社のビジネスモデルはどのように変わるのか。航空会社のCRS(コンピュータリザベーションシステム)がインターネットに繋がると、旅行代理店のビジネスモデルはどうなるのか。
こういったことを、徹底的に議論していきます。そして、その議論をしていた94年にAmazonができました。つまり、その後に起こる全てのことは、あのときのディスカッションでみんな網羅していたともいえますよね。
アメリカから帰国後iモードビジネスを立ち上げ
夏野氏
アメリカの大学でインターネットとビジネスについて学んだあと、95年に日本に帰ってくると、日本ではインターネットに関するビジネスが何もなかったのです。これは何かできると思って、広告収入をベースにした無料のISPモデルを提供するベンチャービジネスを立ち上げるんですが、これが日本で最初のネットベンチャーでした。しかし、始めるのが早すぎて、うまくいかなかったんです。97年には潰れてしまいました。そのときにアジア経済危機が起こって、働くところがなくなり、仕方なく入ったのが NTTドコモです。
ドコモでは、携帯電話をインターネットに繋げるっていうことをトライしようとしていたので「そうか、携帯があったか!」と思って、今度は絶対に失敗しないビジネスモデルにしようと考えて作ったのが「iモード」です。
山本氏
iモードが出た時、確実に日本人が世界の中で一番インターネットを活用している国民でしたよね。
夏野氏
そうですね。1999年にiモードが出て、世界で初めて携帯電話からインターネットにアクセスするモデルが作られました。
実は、当時の日本はPCの普及率において世界の中でも劣っていたのです。ところが、iモードが出てきて、3年で携帯電話の8割以上がインターネット接続携帯に変わりました。さらに、5年で99%の携帯電話がインターネット接続携帯に変わるのです。これによって、2000年代の前半には、世界で一番インターネットを使っている国民は日本人になりました。
GoogleのCEOのエリック・シュミットさんも「これはすごい」と思っていたようです。Googleは、かなり初期からiモードに検索エンジンを提供してくれてたのですが、日本では携帯からの検索数がPCからの検索数を上回ってしまったのです。これが、後にGoogleがAndroidをやるきっかけになったそうです。
山本氏
日本は、コンシューマーの方で世界最先端の国だったわけですね。
夏野氏
日本人は、スマートフォン以前からネットでコンテンツを買う行動が行われていました。iモードを搭載したガラケーの時代でも、携帯電話からのコンテンツ購入は兆単位のマーケットがありましたからね。
今でもiPhoneのAppStoreにおけるコンテンツ消費量で比較すると、アメリカのほうが人口が多いにもかかわらず、日本人1人当たりのコンテンツの消費量はアメリカの2倍あるんですよ。
消費者と企業で浸透スピードが異なる日本におけるテクノロジーの発展
山本氏
日本はこれだけ「新しいもの好き」な国なのに、いざ企業側となると、なんかとてつもなく遅れている気がするのですが。
夏野氏
これは、非常に残念に思っています。僕の専門の一つが「テクノロジーのソーシャルアダプテーション」という分野です。この分野の研究によると、テクノロジーが出てきてそれが社会に浸透していくスピードにおいて、日本はコンシューマー側は早く、企業側は遅いという特徴があります。
日本企業の浸透スピードが遅い理由はいろいろとありますが、一つは「現状維持志向が強い」ということが挙げられます。これは、法制度や企業の慣習としてもいえることです。
テクノロジーというのは、ただ社会に実装されるだけではほとんど効果がありません。社会に実装される時に、法律であったり、ビジネスの慣習であったり、あるいは人事システムであったり、そういったものも同時に変えていく必要があります。
テクノロジーに合わせて法律や慣習なども変えていくことで、本当にテクノロジーが社会に実装されたということになるんです。
管理職が多い日本企業
夏野氏
日本の場合は、指揮命令系統が30年前と変わっていません。例えば、コミュニケーションが密になり、1人1台携帯電話とPCを持っている時代にもかかわらず、なぜか社長から係長まで数多くの役職があります。
Googleを例として説明すると、Googleでは等級3段階しかありません。なぜならば、テクノロジーで1人の管理職が見れる人の数が増えたからです。さらに、もう一つの理由として個人の情報収集能力が上昇したことも挙げられます。
例えば、新卒社員に対して何ヶ月もかけて研修を実施する会社も多いと思いますが、一般的な研修の内容はインターネットで調べればほとんど出てきます。テクノロジーを活用すれば、新卒の研修を2週間に圧縮することも可能です。
これからの会社は「1箇所で5年勤めたらプロになる」ということはなくて、成果は従業員がその仕事を好きかどうかで決まります。好きなことなら自分からインターネットで調べて、どんどん能力が上がっていくけれども、やらされた仕事だとなかなか能力が上がらないですよね。そこで、僕の会社では、社内にFA型異動制度を導入しました。
例えば、とあるポジションに「応募します」と言って、それが成立したら現所属の上司はその部署異動に対して何も言えません。これが、テクノロジーに合わせて人間のシステムを変えてるということです。
管理職の数もかなり減らしました。なぜなら、そんなにいらないからです。今は、管理職比率が全体の20%を切っています。しかし、日本の多くの企業は、30%〜40%が管理職というのも事実です。
山本氏
たくさん長く働いてる人に対して、「なにか役職つけないと」という気持ちで役職をつけてるような風潮もありますよね。
夏野氏
ある会社の場合、全社員のうち40%が管理職です。これはつまり、一般社員との比率が1対1.5の割合で、ほぼ一人の非管理職社員に対してマンツーマンで管理職がいる状態なんですよ。そこまでの数の管理職は必要ありません。僕の会社では、局長・部長・課長以外の役職は全部廃止しています。担当部長とか、「次」とか「副」がつく役職は全部廃止しました。なぜなら、そういう役職は必要ないからです。
テクノロジーに合わせてルールを変えるべき
山本氏
テクノロジーに対する姿勢って、やはり経営者の感じ方の差がとても大きいと思うんですが。いかがでしょうか。
夏野氏
日本では、「全ての社員のデスクトップを経営者がいつでも見れるようにしてる」というサービスを売ってる会社とかありますけど、馬鹿げていますよ。
社員の評価は成果で測るべきであって、全ての社員のデスクトップを遠隔で見る必要はないですよね。しかし、こういうことが起こってしまうのは、日本の企業がテクノロジーを正しく使えてないということです。
僕は、社会の中でテクノロジーが出てきたら、そのテクノロジーに合わせて人間側のルールを変えていくことが大切だと考えています。これを経営者や政治家がやらない限り、日本はうまくいかないと思います。
非常に象徴的な数字があります。1996年における日本のGDPと2019年におけるコロナ直前の日本のGDPは4%しか成長していません。これに対して、アメリカは165%成長しています。165%というのは、GDPが約2.7倍になってるということです。
1996年は、携帯も1人1台持ってない、PCも1人1台じゃない、インターネットにアプリケーションがほとんどない時代です。その時代と比較して、日本の生産性は、ほぼ変わっていないといえます。なぜかというと、経営者や政治家が、使う人の仕組みを変えてこなかったことに原因があります。
ネット社会における日本の組織構造
山本氏
本当に耳が痛い。ぜひみなさんにも聞いてほしい話なのですが。いまだにワークフローひとつ開発する業務においても「代理承認が欲しいんです」という方がいらっしゃいます。昔の紙の文化であれば「部長がいないと業務が回らなかったから」ということなんでしょうが。
夏野氏
今ネット社会においては、立場が上位に上がれば上がるほど暇になります。なぜならば、所謂雑務は全てテクノロジーが解決してくれるからです。しかし、それでいいと思います。暇になれば、その時間を思考したり戦略を考えたりすることに使えばいいのです。一方で、スタッフ部門でも大幅に人が減っています。
例えば、経理とか財務・人事です。こういったところは、コンピューターがやってくれることが多くなっているので、人間の仕事が減り大幅に人が減っています。
ただし、多くの民間企業では逆に管理職が増えてしまっている実態もあります。これによって、昔は管理職2割ぐらいだったところが、今は管理職が4割を占めて、多くの会社で生産性が上がらない状況に陥っているのです。
山本氏
生産性が上がってない理由として、やはり管理職の問題が大きいのでしょうか。
夏野氏
管理職だけが問題ではないのですが、ヒエラルキーの構造において象徴的になっているといえます。ネット社会においては、このヒエラルキーを圧縮して、フラットな組織にできる のに、わざとしてないともいえるでしょう。
テクノロジーに対して寛容でなければいけない
山本氏
組織を作り替えられないのは何が問題なのでしょうか。
夏野氏
日本は法律や政治の世界において、現状維持傾向が大きいといえます。
例えば 、Uberというライドシェアサービスは世界で唯一日本だけが認められていません。Uberは、普段はあまり使われてない自家用車を持つ人や時間が余っているドライバーと、車に乗ってどこかに行きたい人の需要をスマートフォンでマッチングした生産性の高い仕組みなんです。
日本では、50年以上前に作られた白タク規制の法律によってUberのサービスが規制されていて、しかも日本タクシー協会がUberのライドシェアに反対しています。そこを打破するエネルギーがなかなか生まれず、メディアも「そんなサービスが入ってきたら今のタクシー運転手さんがかわいそう」という内容を伝えてしまっています。
しかし、Uberが入ってきたら1番得するのはタクシー運転手さんです。なぜかというと、タクシー会社の車を使わなくてよくなり、自分の稼ぎも良くなるからです。しかし、やっぱり変化することが怖いんですね。
「変化をしてみたら意外と怖くなかった」ということは山ほどあります。過去25年は、みんなが新しいものに対して「そんなことやっちゃったら怖い」というモードになってしまっていたと思います。その中で、テクノロジーの変化を怖がることなく、変化してきた企業は皆伸びてるんです。例えば、ソフトバンクやファーストリテイリングなどですね。どんどんテクノロジーを取り入れて、いち早くレジを廃止したりしています。
山本氏
やればできるのにやらない企業が多い、ということですよね。
夏野氏
企業の現場でも「そんな仕組み入れちゃったら今までやってた人が仕事なくなる」といったことを言いますが、なくなってもいい仕事だったら、なくなった方がいいんです。なぜなら、どこも人手が足りないから。
山本氏
これは誰が決断するべきなんでしょうか?
夏野氏
これは、民間企業においては経営者、そして国の法制度においては政治家です。リーダーが過去25年間に果たすべき役割は、「どうやって新陳代謝をするか」とか、「どうやって新しいテクノロジーを使って社会制度を変えていくか」ということだったと思います。しかし、日本は「社会の安定」などに気を使いすぎてしまったのではないでしょうか。
山本氏
日本は、今マイナンバーひとつでもいろいろ問題が出てきますよね。
夏野氏
マイナンバーは問題が出てますが、マイナンバーがない時代よりは、はるかに様々なことが効率化されていますよ。住民票一つ取るのもコンビニに行けば取れるようになりました。こうしたメリットをもっと取り上げるべきなんです。マイナンバーによって、どれだけの人間が稼働しなくてよくなってるかということをみんな考えるべきだと思います。
新しい仕組みを入れると、必ずうまくいってない部分も出てきます。しかし、それを上回る「いいこと」があればそのほうがいいと思います。テクノロジーに対してもう少し寛容に許容していかないと、本当にもったいないことになると思います。
DXに対する経営者からの理解を得られない情シスへ
山本氏
DXを活用していこうと思うと、なかなか経営者の人が実際には判断してくれない、という実態もあります。経営者の人が理解してくれないので、情報システム部門の人だけ一人寂しくもがいてることも結構多いように見受けられるのですが、そういうのはどうしたらいいんでしょうか。
夏野氏
従業員が経営者に対し「何を判断してほしいのか」を明確に伝えられていないケースが多いと思います。
従業員が経営者に対して
「ここの仕様をこっちに倒すかこっちに倒すか迷ってるんですけど」
と相談しているといった話をよく聞くんですが、その従業員が判断を迷っている理由はどこにあるのか、ということも合わせて相談した方がいいでしょう。
その問題が、今の既存の組織の仕事の進め方にあるのか、社内のルールにあるのか、それとも単にどっちの方がコストが安いのかなど、経営者からは見えないんです。だから分かりやすい形で伝える必要性があります。
例えば、社内規則を変えてほしいと考えているとします。しかも、世の中ではあなたの提案を採用している会社の方が多いようです。その場合、「うちの会社はこの規則の存在が他社と比べても特殊であり、ここの仕様に特異点が出ているのですが、会社としてはこの規則を維持して独自の方向で行くべきとお考えですか?」
という聞き方をしてあげないと経営者は理解できないですよね。
山本氏
(特殊な社内規則のせいで会社が)独自な方向に向かっていってしまっているということを、相談の背景も含めて従業員が社長に分かりやすく伝えることが大事ってことですよね。
夏野氏
その問題が独自性が高いかどうかは、悩んでいる内容で問題点が異なると思うのですが。上司も「仕様をどちらに倒すか」という漠然とした話だけ聞いてもわかりません。
組織のあり方そのものに依存する問題なのか、仕事の進め方に依存する問題なのか、それともシステムのその対応能力やコストに問題があるのか、という内容まで突っ込んで従業員は上長に相談するべきと思います。そうしないと相談された側の経営者はそもそも何が問題かが分からず、よって何を決めていいのかわからないですよね。
山本氏
もっと上位レイヤー(例えば経営層)で「DXを活用しよう」というキーワードだけ言われて現場が困ることもあると思いますが、それについてどう思われますか?
夏野氏
キーワードはもう十分広まったと思います。今更「DXしなくていい」なんて言う経営者は一人もいないと思います。ただ、DXの意味合いまで理解しておらず、システム導入すればそれがDXだと思っている経営者が多いのも事実です。
例えば「ここの業務フローが変わればパッケージソフトウェアは入れただけで済みます。しかし、この会社は特別にソフトウェアを作っているので、内容を変更するには何千万円余計に必要です。多額の費用をかけてでも、業務フローを変えませんか?」と聞かないと経営者はわからないですよね。
山本氏
本当に業務フローを変えずに、多額の費用をかけて独自のシステムを作っている会社さんが多い印象はありますね。
夏野氏
経営者に対して、現場の従業員が具体的な問題提起をできていないだけかもしれませんね。もし仮に、経営者がそれを分かろうとしていないのだったら、早く転職した方がいいですよ。それは会社としての将来が極めて危ういと言えますから。
山本氏
やはり、情報システム部門の方々がちゃんと具体的な提案までやってあげる必要がありますね。
夏野氏
そのほうが、お互いにすっきりしますよね。仮に、費用が高くなってもいいから今の業務にあわせて開発しろと言われれば、それで結論が出たからいいんじゃないでしょうか。
山本氏
ただ、独自に開発するとなると、その時のカスタマイズ費用だけではなくて、その後のメンテナンスも必要になりますよね。
夏野氏
メンテナンス費用もそうですが、それ以上に業務効率が悪い状態が続いてしまうことのほうが問題ですよね。
山本氏
時代の変化によってシステムの基本機能は便利になっていきます。本来であれば、時代に合わせて新しく進化できるはずが、取り残されてしまうマイナス点をカバーしていくためには勇気を持った方向転換も必要ですよね。
夏野氏
「勇気が必要」というか、テクノロジーの進化に合わせて新たなテクノロジーを取り入れていったほうが会社にとって絶対に安全です。逆に、入れていない方が本当に危ないんです。
山本氏
そうですよね。この危なさをぜひ皆さんにわかってほしいですね。
業務にシステムを合わせるのではなく「システムに業務を合わせる」
山本氏
先ほど業務にシステムを合わせるんじゃなくて、システムに業務を合わせるというお話がありました。どうやったらシステムに業務を合わせられるのでしょうか。
夏野氏
実は、日本では各企業の仕事のやり方に合わせてベンダーさんに特注の仕組みを作ってもらうってことが昔からずっと続いてきました。しかし、アメリカとかヨーロッパでは、パッケージ ソフトウェアが出てきた際に、業務フローをそのパッケージソフトウェアに合わせていくっていう流れになったのです。
なぜ、そういったことが可能かというと、欧米諸国では人も企業の間を流動しているので、会社独自のやり方を残しておくと、新しい人材がきた時に効率が悪くなります。人事や経費精算などは、それ自体に企業ごとに違いはありませんよね。
日本では、年功序列や終身雇用などがあったから、独自のシステムを開発する流れが継続してしまったんです。これは、もう不効率の極みになっています。
例えば、クラウドは何か細かいAPIをいじればいじるほど価格が上がってしまいます。独自のシステムを作るコストがどんどん上がってしまうのです。そのため、今の社内ルールに合わせてシステムを作るのではなくて、そもそも「あるべき社内ルール」は何かっていうことを考えて、クラウドへの載せ替えやパッケージソフトウェアの導入を考えるべきなんです。
さらに、パッケージソフトウェアっていうのは、何千社に導入されているわけです。何千社で行われていることと、自社の業務フローが異なっている時点で、経営者がその危険性に気付くべきですよね。
山本氏
弊社もサイボウズ社のkintone基幹システムも情報システムも全部あれ一つですが、これだけで上場まで持ってこれましたからね。
夏野氏
パッケージソフトウェアだけで済むはずなんです。そもそも、その「独自」というところに魔物が潜んでいます。なぜそれが「独自」なのかを考えなければいけません。本来であれば、そんなに独自なことはいらないはずです。その「独自」によって、不透明なルールとか、わかりにくいルールにつながっているので、業務の見直しとセットでシステムの導入っていうものを検討すべきだと思います。
日本企業のAIの活用について
山本氏
これからはクラウドの活用というものと同時に、一番気になるのはAIですよね。AIについて、日本人は先ほどのインターネットの時と同様に、すごくAIについて積極的に活用しているようにも見えるのですが。どうお考えでしょうか?
夏野氏
AIに関して言うと、やはりコンシューマー(消費者)のレベルではとても進んでいると思います。例えば、ChatGPTの日本語での使用割合がどんどん増えてる実態もあるのですが、企業への導入となると、まだ足りていない部分がありますね。今までのAIにおいても、ベンチャー企業も含めて、あらゆる企業が様々なソリューションを出してますが、今ひとつ浸透するスピード感がないなっていう感じはします。
例えば、OCRの読み取りみたいなものは、もうAIでどんどん読み取れるにもかかわらず、ちょっとした間違いが発見できない可能性を怖がって人間のチェックを入れてしまうこともありますよね。
もっと積極的にAIを入れていくべきだと思っています。また、生成型AIに関しては「どのような使い方がベストだ」というのが確立していないからこそ、経営者が「どれぐらいは使っていいんだ」ということをガイドラインに示していくべきだと思っています。
夏野氏が実施する企業が生成型AIを活用する具体的な方法
夏野氏
うちの会社では、まず「ChatGPTは4.0を使ってくれ」と伝えています。3.5と4.0の機能差があるので、月額20ドル払ってでも4.0を使うことを推奨しています。また、ChatGPTを使って何か社内資料を作った場合には、それは必ず明記し てくださいと伝えています。ただし、出版物など外に出す書類にはChatGPTを使わずに、人の手で書いたものを使うように伝えています。 外に出す出版物に生成AIを使うには、まだ早いという判断をしているのです。
一方で、社内のシステムには、どんどん応用していこうという方向感は出しています。
例えば、社内のノウハウが詰まってるサーバーとかデータベースがあるんですが、このデータベースの検索性が悪いのであまり使われていませんでした。それをサポートするためには対話型AIが極めて役に立つだろうと思っています。
なぜなら、結局そういう質問がSlack経由で人事担当者に来ており、人を通して回答されている実態があったからです。人を通して回答している部分を、全面的に対話型AIに変えていけば、効率性がアップします。会社のデータベースには、いい加減な情報は入ってないので、対話型AIの応用例としてかなりいい結果にできるはずだと思っています。
データベース化されていない企業はどうすべきか
山本氏
社内の情報をデータベース化されてる会社はいいと思うのですが、データベース化されてない企業も多いと思うんですが、そのあたりはどのように考えますか。
夏野氏
データベース化されてないということは、新しく入ってきた従業員たちのラーニングスピードが遅くなるってことですから注意しなければいけません。
データベース化されていることによって、学ぶ速度は急激に上がります。さらに、たくさんの従業員がいれば、集合値が活用できるというのは ネットワーク社会の大きな利点といえます。
データベース化が進んでないと、従業員の仕事の進め方が全て個人プレーのままなのでスケールメリットが出ずにシナジーも生まれません。こんなにもったいないことはないので、どんどんデータベース化した方がいいと思います。
山本氏
そう考えると、いち早くデータベース化からでもやっていかないといけませんね。
夏野氏
AIが威力を発揮するのはビッグデータです。ビッグデータじゃなければ、人間でも解析できてしまうので。AIがAIと呼ばれる定義は何かというと、人間では解析できないぐらい大量で常時更新されているデータを分析することです。これによって、我々が直感的に「こういう営業手法が良かったな」などと思っていることがどんどん明確化されます。
例えば、ひと月に営業マンが売っているメールの数がどれぐらいあるとか、外出先はどういう経路で回っているとか、そういったデータが可視化されると思います。
ますます進化するAI時代に備え社内システム整備の見直しを急ぐべき
夏野氏
ビッグデータをAIが分析することによって、あらたな真実がどんどん発見される時代が今後30年でやって来ます。その時代に対応するためにも、今からデータベースの整備と社内システムの整備を進めておかなければいけません。
山本氏
勇気を持ってデータベース化と社内システムの整備を進めるべきですね。
夏野氏
本当は、留まる方が勇気がいるんですよ。なぜなら、留まるということは「進化しない」ということなので、周りから遅れることに繋がります。競合相手が新たなテクノロジーを導入したら、絶対に負けるでしょう。僕は、ITは「ビジネスマンのウェポン(武器)」だと思ってます。ちゃんとした武器で武装しておかないと、ライバル企業に負けてしまいますよね。
山本氏
深刻ですね。本当に強い武器と弱い武器の差が明確にどんどん広がっていくってことでしょうか。テクノロジーが進んでいる時代なのだから、どんどん強い武器を持って進んでいくべきですね。
夏野氏
テクノロジーは、使い方を誤ると怪我をしてしまうことも武器に似ていますよね。使い方を誤ると、情報漏洩などの問題にも繋がりますからね。
しかし、メリットの方がはるかに大きいでしょう。セキュリティにも留意しながら、積極的に活用していくしか道はないと思います。
新たなテクノロジーに対して寛容な姿勢を持ち導入には積極的であるべき
今回、夏野 剛氏に「AI時代に向けて準備すべきこと」について語っていただきました。インターネットがアメリカで勃興し始めた1990年代から、現在の日本までの変化を目の当たりにしてきた夏野氏は、日本の企業におけるテクノロジーの浸透スピードが遅い原因として「現状維持志向」の強さを指摘しています。
新しいテクノロジーを導入するには、ある程度のリスクも伴います。しかし、その先にある便利な未来を手に入れるためには、新しいテクノロジーに対して寛容な姿勢を示すことが重要です。
AIがAIと呼ばれる定義は、人間では解析できないぐらい大量で常時更新されているデータを分析することです。この技術を活用するためには、データベースの整備と社内システムの整備を進めておかなければいけません。
社内システムを効率化し、大量のデータベースを管理して、AIを最大限活用できれば企業の可能性が広がることでしょう。
テクノロジーは「ビジネスマンのウェポン(武器)」という言葉が印象的でした。多くの企業がITという武器を持って戦えるようになると、日本の企業はより強くなるのではないでしょうか。