電子契約を導入することでさまざまなメリットがもたらされる一方で、一部の契約書は電子化できないと法律で定められているケースがあるので注意が必要です。
「法律によって契約書を電子化できない書類を知りたい」「電子契約ができない理由は?」と疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
本記事では、電子契約ができない契約書の例や、電子契約できない理由、電子契約を導入する際に理解するべき各種法律について解説します。
すべての契約書を電子契約化できるわけではない
近年、インターネットの普及やペーパーレス化の促進、業務効率化に伴い、契約書の電子化が普及しています。
契約書を電子化することで、コスト削減や事務作業の効率化、検索性の向上などさまざまなメリットがもたらされます。
電子化を促すさまざまな法改正も行われている一方で、一部電子化できない契約書もあるので注意しなければなりません。
電子契約できない契約書を電子化したうえ、原本である書面の契約書も破棄した場合は、原本を紛失したことになるため、税務調査や訴訟時の証拠収集対応で問題になります。
自社で電子契約を導入する際は、電子契約できない書類を必ず確認しましょう。
電子契約不可な契約書一覧
法律によって書面契約が必須とされ、電子契約ができない契約書は以下のとおりです。
文書名 | 根拠法令 |
事業用定期借地契約 | 借地借家法23条 |
企業担保権の設定又は変更を目的とする契約 | 企業担保法3条 |
任意後見契約書 | 任意後見契約に関する法律3条 |
※2024年5月時点
これらの契約は、公正証書によって契約を締結することが法律で定められています。公正証書は、公証人の立会いのもと作成が義務付けられているため、紙での契約が必須です。
なお、公正証書は、規制改革推進会議において電子化を認める範囲や、時期について検討が進められています。そのため、今後は上記の契約書についても電子署名が認められる可能性があるでしょう。
法改正によってほとんどの電子契約書が締結可能に
以前は書面契約が原則でしたが、電子契約に書面契約と同等の法的効力を持たせる電子署名法が2001年に施行されました。
それ以降も以下の法律が施行されたことで、ほとんどの契約書が電子契約で締結できるようになっています。
- 電子帳簿保存法
- 電子署名法
- IT書面一括法
- e-文書法
- デジタル社会形成整備法
一部の契約書は引き続き書面契約での締結が必要
電子化を促すさまざまな法改正も行われている一方で、一部電子化できない契約書もあるので注意しなければなりません。
電子契約できない契約書を電子化したうえ、原本である書面の契約書も破棄した場合は、原本を紛失したことになるため、税務調査や訴訟時の証拠収集対応で問題になります。
自社で電子契約を導入する際は、電子契約できない書類を必ず確認しましょう。
電子契約できるが相手方の承諾等が必要な契約書
電子契約は可能なものの、契約相手方の承諾・希望・請求が必要な契約書もあります。
たとえば、建設工事の請負契約・下請との受発注書面などは、相手方の承諾が必要です。
契約の締結件数も多く、書面では印紙税が課せられるのに対して、電子化すれば印紙税が不要になるため、電子化のメリットを大きく得られるでしょう。
相手方の承諾は必要ですが、承諾を得ることができれば法律的には問題ないので、積極的に電子契約を活用するのがおすすめです。
また、労働条件通知書や派遣社員に対する条件明示書面は、「承諾」ではなく「希望」を確認する必要があります。
電子契約にできない理由
電子契約できない理由としては、以下のようなものが挙げられます。
- 公正証書化する義務があるため
- 消費者保護のため
ここでは、それぞれの理由について解説します。
公正証書によって締結する義務があるため
前述のとおり、一部の契約書は公正証書によって契約を締結することが法律で定められています。そのため、現行では書面での締結が必須です。
- 事業用定期借地契約
- 企業担保権の設定又は変更を目的とする契約
- 任意後見契約書
公正証書とは、公務員である公証人が法令に従って、法律行為その他私権に関する事実について作成する公文書のことを指します。
なお、公正証書については、規制改革推進会議において電子契約を認める範囲や時期について検討が進められているようです。今後、公正証書の作成にかかる手続きがデジタル化される可能性があると言えます。
消費者保護のため
2023年6月以前は、消費者保護の観点から、特定商取引(訪問販売等)の契約は電子化できませんでした。特定商取引とは、具体的に以下のような取引が挙げられます。
・連鎖販売取引
・特定継続的役務提供
・業務提供誘引販売取引
・訪問購入
しかし、特商法の改正によって、2023年6月1日から「消費者から事前に承諾を得ること」を前提に電磁的方法による交付が可能になりました。電磁的方法には、電子メールや電子契約サービスが該当します。
また、クーリング・オフ通知書面についても電磁的方法が可能になりました。
電子契約の契約に関する法律
電子契約を正しく導入するには、各種法律を配慮する必要があります。
- 電子帳簿保存法
- 電子署名法
- IT書面一括法
- e-文書法
- デジタル改革関連法
ここでは、それぞれの法律について解説します。
電子帳簿保存法
電子帳簿保存法とは、税務関連の帳簿について電子化を許可する制度を定める法律です。経理のデジタル化による業務効率化を図れるとして、国税庁の主導によって定められました。
電子帳簿保存法では、以下3つの方法が認められています。
- 電子帳簿等保存:電子的に作成した帳簿や書類を電子データで保管
- スキャナ保存:紙で作成された書類をスキャナで読み取って電子データで保管
- 電子取引:電子データで授受された取引関連書類
これらに加えて、真実性の確保や関係書類の備付、見読可能性の確保、検索機能の確保という要件を満たすことで、国税に関する書類を電子化して紙で保存しないようにできます。
2024年1月に改正法が施行され、過少申告加算税の軽減措置が適用される電子帳簿の範囲が限定的になることが決まり、スキャナ保存の要件が大幅に緩和されています。
電子署名法
電子署名法は、2001年4月1日に施行された法律で、正式名称を「電子署名及び認証業務に関する法律」と言います。
電子文書の署名が本人によって付与されたものであれば、契約は成立したものとみなされ、本人による署名・押印と同等の法的効力を持つとされています。
電子署名が本人のものであると証明するため、第三者による「認証業務」および「特定認証業務」の制度も整備されました。
認証業務・特定認証業務である電子署名サービスを用いることで、法的効力が高い電子契約を作成することができます。
IT書面一括法
IT書面一括法は、電子取引を促進することを目的に、2001年に施行された法律です。
民間で交わされる書面作成が義務付けられている取引について、相手方の承諾を得れば、電子メールや電子サービスを用いた契約書等の交付が認められると定められています。
ただし、公正証書が必要になる契約や、対面での取引を前提とする契約など、書面交付以外の方法が認められていないケースもあるので注意が必要です。
e-文書法
e-文書法とは、下記2つの法律の総称です。
電子帳簿保存法は、国税に関する書類の電子化に関するものであるのに対して、e-文書法は、「民間企業において保存義務のある各種契約書面について電子化を認める」というものです。
具体的には、会社法や法人税法、商法、証券取引法などにおいて保管が義務付けられている帳簿や請求書、領収書などが対象です。
デジタル改革関連法
デジタル改革関連法とは、デジタル改革を進めるための法律の総称です。
このうち、契約書の電子化については「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」で取りまとめられています。
同法では、特定の手続きにおいて必須とされている押印を不要としたり、電磁的方法で書面交付を可能にしたりと、さまざまな分野において電子化が進められています。
たとえば、不動産取引に関する契約は書面交付が義務付けられていたものの、同法によって電子化が認められるようになりました。
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