【横浜市医師会】トヨクモ製品を活用して災害被災地での情報共有をデジタル化

トヨクモが主催する「トヨクモ kintone フェス 2024」は、25以上のkintone+トヨクモ製品の活用例を大公開する年に一度のオンライン+リアルイベントです。

2024年のテーマは「きっと、もっと好きになる、kintone」で、さまざまな業界で活躍中のユーザーからkintone+トヨクモ製品の便利な使い方をご紹介いただきました。

今回は、一般社団法人 横浜市医師会 斎藤健氏に語っていただきました。

自己紹介

こんにちは、横浜市医師会の斉藤です。本日は、能登半島地震の災害支援活動でkintoneとトヨクモ製品を活用した事例について紹介いたします。

はじめに自己紹介をさせていただきます。神奈川県横浜市出身で、2000年に横浜市医師会に入局。20年以上、現場を含めてさまざまな業務を経験してきました。

現在は、公衆衛生や健診、予防接種事業と情報システムを担当する課の所属長をしております。

横浜市医師会の概要

横浜市医師会は、横浜市内に従事する医師の会員団体です。開業医と勤務医を合わせて、約4,300人の規模となっています。

活動は予防接種事業や検診事業、地域医療センター連携事業に地域包括ケア事業など多岐に渡り、市民の保健・医療・福祉を支えるさまざまな事業を実施しております。

横浜市医師会のkintone/トヨクモ製品利用状況

横浜市医師会では、2021年度に新型コロナワクチン集団接種業務を受託し、人員派遣システムを作成するにあたりkintoneとトヨクモ製品を導入しました。

当初は5人で運用しておりましたが、事業運営の効率化を図るため、2022年度に事務局職員50人に導入し活用している状況です。

トヨクモ製品はFormBridgekViewerPrintCreatorを利用しており、この3製品を連携させて業務効率化を図る事例も多くあります。

私の所属している部署では、皆が日々アイデアを出し合い、kintoneやトヨクモ連携サービスを活用して効率的な業務に努めております。

事例紹介.令和6年能登半島地震におけるJMAT活動

それでは、今回の事例について説明させていただきます。

令和6年1月1日、能登半島において最大震度7を記録する地震が発生し、現地では被災地の復興を支援するためにさまざまな団体が活動している状況です。

我々の上部組織である日本医師会では、被災地における地域医療の再生、復興を支援するためにJMATといわれる災害医療チームを派遣しています。

横浜市医師会は、神奈川JAMTとして6隊を被災地に派遣し、医療機関の支援や避難所での健康観察、医療活動などを実施しました。

私は、被災地支援のために神奈川JMAT第7隊の業務調整員として参加しています。

JMAT活動で直面した問題

私の参加した隊では、被災地の避難所を巡回し、医療を必要とする方の健康観察を実施してきたのですが、ここで大きな問題に直面することになりました。

派遣先で直面した主な問題は、以下の6つです。

  1. 大勢の避難者が在所
  2. 感染症の罹患者が多い
  3. 医療を必要とする方のほとんどが高齢者
  4. 引継ぎが口頭になっていて情報管理が困難
  5. 避難所の看護師とJMATの情報共有が難しい
  6. LINEの情報からでは個人の特定が困難

それぞれの問題について説明いたします。

問題1.大勢の避難者が在所

1つ目の問題は、多くの人たちが在所する避難所を巡回した際に、医療を必要とする方を見つけ出すことが難しいということでした。

私が訪問した避難所には、約172名の避難者がダンボールハウスで生活しており、車中泊をされている避難者もいらっしゃいました。

施設内で医療を必要としている方の人数は中規模病院にあたる規模であり、通常であれば電子カルテですべての情報が管理されています。しかし、しかし、避難所は医療施設ではないため、そういった管理ツールはありませんでした。

問題2.感染症の罹患者が多い

2つ目の問題は、感染管理が必要な感染症罹患者が多数いたことです。

避難所では多くの被災者が集団生活をしているため、インフルエンザや新型コロナウイルスなどの感染症にかかってしまう方が大勢いらっしゃいました。

そういった方は、施設内に設置したテントや隔離した部屋に移動して感染拡大を防いでいました。しかし、誰がどの部屋にいて、いつ発症していたのかといった情報をすぐに確認できる体制が整っていませんでした。

問題3.医療を必要とする方のほとんどが高齢者

3つ目の問題は、医療を必要とする方のほとんどが70代後半から90代の高齢者であったことです。

自分の年齢、普段飲んでいる薬などを言えないような認知症の方もいたため、本人情報を把握することが大変困難でした。

問題4.引継ぎが口頭中心で情報管理が困難

4つ目の問題は、情報の引継ぎが口頭中心で情報管理が困難になっていたことです。

私が訪問した避難所では、近隣病院の看護師が交代で出向して、避難者の健康管理を実施していました。しかし、看護師間の情報の引継ぎが口頭中心であるため、情報管理が難しい状況でした。

カルテの作成も試みましたが、人数が多く、とても紙に書いて管理できる情報量ではありませんでした。

問題5.看護師とJMATの情報共有が難しい

5つ目は、看護師とJMATでの情報共有が難しかったことです。

避難所の看護師とJMAT隊は数日で交代する上、十分な引き継ぎ期間がなく情報共有がままならない状況でした。

情報が分断されることによって、避難者への聞き直しが必要になる場合もありました。

問題6.LINEの情報では個人の特定が困難

6つ目は、LINEの情報から個人の特定が困難だったことです。

介入したJMATや看護師チームが医療を必要としている方の情報を地域のグループLINEに投稿するのですが、ここでは個人を特定する情報を流せません。

そのため、「70代女性」のような大まかな情報を頼りに大勢の避難者から特定の個人を探し出す必要があり、すぐに見つけることが難しい状況でした。

災害医療の目的は防げる死を防ぐこと

今回の施設の車中泊避難者の中には、毎日健康観察が必要なハイリスクの方もいらっしゃいましたが、車のナンバーすら共有されていないような状況でした。

災害医療の目的は、防げる死を防ぐことです。医療を必要としている方を把握できないことで、この目的を達成できないリスクがありました。

私の参加した隊では、この問題を解決するために、避難所の医療従事者が必要な情報を一元して管理・共有できるツールをkintoneとトヨクモ製品で構築することになりました。

kintone×トヨクモ製品で情報共有ツールを構築

はじめに、今回作成したシステムの概要を説明します。

作成したシステムは、問題が明らかになった日の活動を終えてホテルに帰還した後、私が数時間で作成したものです。作成にあたって私のチームの隊長からあったリクエストは、できるだけ簡単なものにしてほしいというものでした。

避難所で支援にあたる看護師は、数日で交代します。そのため、操作でつまずかないように、データの閲覧から編集、登録までをできるだけ簡単に作成いたしました。

まず、医療を必要としている避難者の情報をkintoneに登録しました。次に情報の閲覧ですが、kintone内の情報はkintoneのアカウントを持っているユーザーでなければアクセスできません。

そこで現場では、トヨクモのkViewerを使用して情報を閲覧することにしました。そして、要医療者の情報の登録や更新は、FormBridge連携を利用して実施することにしました。

また、これは現場からリクエストがあって追加で作成したのですが、Wi-Fiの届かない部屋があったため、PrintCreator連携で予め個人票を印刷する機能も実装しました。

なお、これらの機能はすべてタブレット端末で操作する前提で作成しております。

kViewerでトップ画面を作成

こちらが今回のシステムのトップ画面です。

現場では、kViewerで作成したこのビューから各種情報にアクセスしています。

トップ画面には操作マニュアルを表示できるボタンや検索バーを設置しました。サイドバーには、避難者の部屋や感染症の種類で情報を絞り込むカテゴリーも設けています。

また、トップ画面からは既往歴やアレルギーの有無なども確認可能です。

FormBridge連携で情報更新

トップ画面で対象者をタップすると、避難者の詳細画面が表示されます。

現場の医療従事者が必要とする情報は、下部にある「経過」という欄の内容です。

今までの健康状態の変化がテーブルで時系列に表示されるようにしています。これまではこの部分の引継ぎが乏しかったため、毎回本人に聞き直す必要がありましたが、このシステムにより対応がスムーズになりました。

左上の「情報を更新する」というボタンを押すと、FormBridge連携により情報更新用のフォームに遷移します。

情報更新用のフォームは、各種情報を登録し確認ボタンをタップするだけで更新できるWebアンケートのようなシンプルな仕様にしました。

各種情報を登録し、確認ボタンをタップして更新できる、Webアンケートのようなシンプルな仕様にしました。

PrintCreatorで個人票を印刷

個人票を印刷する流れをご説明します。この機能は、帰還後に現地から連絡があり、Wi-Fiがつながらない部屋での対応として追加しました。

PrintCreatorと連携しているため、詳細画面を開くと個人票の出力ボタンが表示されます。このボタンを押すだけで、対象者の健康管理標をPDFとして出力できます。

健康管理票には、対象者がどんな感染症に罹患しているのか、どこにいるのかが分かるように設計しています。

現場の看護師は、この健康管理票を印刷して記入し、通信環境のある場所に戻ってからその内容を登録していました。

事例の振り返り

今回のJMAT活動では、kintoneとトヨクモ製品を被災地で必要な情報共有に活用することができました。

今回の事例におけるポイントは以下の3つだと考えています。

  1. クラウドを利用すれば、現場と支援チームが正確な情報を共有できる
  2. kintoneとトヨクモ製品を使えば短期間で情報共有ツールが構築できる
  3. kViewer、FormBridge、PrintCreatorを組み合わせれば可能性が広がる

クラウドの利用で正確な情報共有ができる

1つ目。クラウドを利用することで、現場と支援チームが正確な情報を共有できました。
必要な情報を正確に把握・共有・更新して残していくことは、災害支援には最も必要なことです。kintoneとトヨクモ製品を利用することで、情報の一元化と持続化を実現できました。

実際に活動を終えて帰還した後でも、横浜から現地のサポートが可能になっていました。

kintone×トヨクモ製品なら短期間で構築できる

2つ目のポイントは、kintoneとトヨクモ製品を使えば、短期間で情報共有ツールを構築できるということです。

スクラッチ開発のシステムでは、要件定義から構築、検証までに多くの時間がかかりますが、kintone×トヨクモ製品なら極めて短期間で構築することができます。また、今回の帳票出力機能のようにまた、完成後に気付いた必要な機能もすぐに追加可能です。

今回は現地で私が作成しましたが、もし手が離せない状況であれば、横浜にいる仲間に連絡をして現地活動をサポートすることもできたと思います。

現地に派遣されなかった人も、kintoneとトヨクモ製品を使えば、被災地を支援できるということです。

トヨクモ製品を組み合わせれば可能性が広がる

3つ目は、kViewer、FormBridge、PrintCreatorを組み合わせることでアカウント未所持でもアプリを活用できるようになり、情報共有の効率化が大幅に向上することです。

横浜市医師会では、普段の業務でも複数のトヨクモ製品を連携して運用しています。そのため、今回の被災地で発生した問題に対し、連携機能を利用することは、それほど難しい発想ではありませんでした。

kintoneとトヨクモ製品を連携して活用することは、さまざまな業種や業務に携わる方の効率化や課題解決を実現できる可能性があると考えています。

おわりに

最後に、地震発生から半年が経過しようとしていますが、被災地ではまだ支援が必要な方々が大勢いる状況にあると聞いています。

被災地の方々に心よりお見舞い申し上げますとともに、1日も早い復興をお祈りいたします。

本日はありがとうございました。